「ドイツで子育てをしていて、後悔したことはない?」
海外子育て組の皆様は、この質問にどう答えますか?
私は、あります。何度もあります。
子供が小さい頃は、一切思わなかったんです。こんなに伸び伸び育てることができて、幸せだなぁと思っていました。
ですが、中高生くらいになり、大学受験が近づいてきたここ2年ほど。こんなことを考えてはならないと自分に言い聞かせながらも、何度も何度も頭をよぎりました。
「もしかして、ドイツで子育てしたことは間違いだったのでは?」
今日は、その話をします。
逆留学で知った、日本の教育の良さ
息子は15歳のとき、関西のある中高一貫校へ3ヶ月間の短期留学をしました。
私はそれを「逆留学」と名付けて記事にまとめてきました。(逆留学シリーズはこちら)
そこで息子が出会ったのは、ハートフルな先生と、温かいクラスメイトたちでした。
授業は静かで集中できる雰囲気。先生は学習の進め方をしっかり教えてくれて、ついていけない子には手を差し伸べてくれます。適度なプレッシャーをかけながら、でも決して突き放しません。
日本の私立の学校教育って、こんなにサポートが充実しているんだと、改めて気づかされました。
勉強の仕方を「教えてもらえる」環境。わからなければ「聞ける」関係性。先生と生徒の距離が近いのです。
日本を長く離れていて忘れかけていましたが、日本のそれはとても恵まれたことなんだと思いました。
18歳になった息子を見ていて、後悔がよぎるように
逆留学から数年後。息子がギムナジウムを卒業しました。
その成績を見たとき…正直に言って、
頭を抱えました。
ドイツ全体の平均で見れば悪くはないかもしれない。(良くもない)
でも、進学校のギムナジウムに8年間通って、その成績か、と。やるだけのことをやってその結果なら良いのです。でも、息子が何をしていたか、私は知っていますから。本人も、「もっと頑張れば良かった」とポツッと言っており、それを聞くと余計に無念でした。今さら後悔したって。散々言ったよね?自分でも「大丈夫、ちゃんとやるから」って言ってたじゃないか。
やるせない思いが込み上げてきて、情けなくて、この思いをどうやって消化したら、昇華させたら良いのか。辛かった時期でもあります。夫も絶句していて、「ドイツに残したのが間違いだったのかな…」と、思わずこぼしていました。
成績のことだけじゃありません。
息子には昔から、大事なことを後回しにするという癖があります。勉強もそう。やるべきことがあっても、どこか楽観的にスルーして、後でツケが回ってくる。
バイトのスケジュール管理も壊滅的で、ダブルブッキングをして人に迷惑をかけたことも、一度や二度ではありません。何度も、「今日バイト入っているけど…いつ来るの?」とバイト先から電話が入り、青ざめて家を飛び出していく姿を目にしました。
笑い話で済めばいいけれど、損害レベルの「ツケ」が回ってきたことも、親である私がそのツケを払わされたことも、一度や二度じゃありませんでした。
怒りで、体が震えたこともあります。
ギャップイヤーで旅に出る直前にもやらかして、私はその怒りを数ヶ月間引きずりました。「この子は本当に大丈夫なのか」「この先責任を負って生きていくことができるのか」と、良い意味でも失敗が許される、ゆるいドイツで育ててしまったからかと、心から不安になりました。
「もし日本で育てていたら、もう少し違ったのかもしれない」
逆留学で見た、あの礼儀正しく約束を守る、同世代の子たちの姿を何度も思い出しました。
ドイツの教育は、基本的に自己責任です。授業についていけなくても、先生が手取り足取り教えてくれるわけじゃありません。管理も、プレッシャーも、日本に比べると驚くほど少ないのです。
その環境が、息子の「まあなんとかなるか」という楽観性に拍車をかけたのかもしれない。
「日本で育てていたら、もう少ししっかり育っていたのではないか」
気がついたら、そんなことを、考えるようになっていました。
ドイツの教育を思い出してみる
息子のやらかしたあれこれを思い出しては、つい否定的な気持ちが湧き上がってしまう自分を落ち着けるために、自分で逆留学シリーズを読み返してみました。
ドイツの学校には、日本とは違う種類の「良さ」があることも、私はちゃんと知ってたはずです。
たとえば、自分の意見を言うことへの躊躇がないこと。
ドイツの授業はディスカッションが多く、「正解を当てる」より「考えを述べる」ことを重視します。間違えることへの恐怖が、日本に比べて圧倒的に少ない。周囲の意見を取り入れつつ、何度も自分の考えを述べることで、自己肯定感が増し、思考が成熟していきます。
(息子が逆留学で驚いたことのひとつが、日本の授業の静けさでした。ディスカッション文化の話は逆留学④でも書いています。)
それから、「違って当たり前」という空気です。
ドイツは移民も多く、クラスにさまざまなバックグラウンドを持つ子がいます。宗教も、言語も、価値観も、全員違う。その中で育つことで、「自分と違う人と一緒にいること」への免疫がついていきます。
誰にも管理されない環境だからこそ、「自分で決める」ことが当たり前になる。それが良い方向に転ぶかどうかは、正直、その子次第なんですけどね。
息子の場合は……まあ、成績や生活態度を見る限り、手放しで良い方向とは言いがたかった。それが私の後悔を生み出しました。
ギャップイヤーという選択
ギムナジウム(中高一貫校)を卒業した息子が選んだのは、ギャップイヤーでした。
ギャップイヤーとは、進学や就職の前に意図的に「空白の期間」を設けること。ドイツでは珍しくなく、旅やボランティアに充てる若者が多くいます。ほとんどの子が、自分のお金で行動します。
「ギャップイヤーを取ることが大学での成績平均点の向上につながるだけでなく、仕事への満足度と大きく関わっていることが複数の研究から示されている」—— Forbes Japan より
18歳になった息子は、卒業してからまず半年間、バイトをしてお金を貯めました。
そして、親友とふたりで旅に出ました。
日本、タイ、そして「行ってみようか」という流れでラオスにも足を伸ばして、飽きたらまたタイに戻ったりしているそうです。自分たちで計画して、自分たちで判断して、自分たちで動く、約5ヶ月間の旅です。
体調のこと、安全のこと、親としてはもちろん心配でした。でも息子は、自分たちで考えて身を守りながら旅を続けています。
そうか、もう叶っているのかもしれない
ギャップイヤーの息子の様子を見ているうちに、私の気持ちは少しずつ変わっていきました。
ドイツで育っていたから、こんなふうに1年間立ち止まって、旅する時間をとれたのかもしれない。
18歳で、親のサポートなしに、自分たちの力だけで旅を計画して実行した。それもこっちで育ったからではないかと。
息子曰く、英語とドイツ語が話せて良かった、日本でも、タイでも、ラオスでも、世界中から集まってきた旅人たちと自然に仲良くなった、だそうです。
ホテルではなくホステルに泊まりながら、ドイツ、イギリス、フランス、キューバ、カナダ、北アメリカ、そしてイスラエルやイラン、——本当にさまざまな国から来た人たちと同じ空間で過ごし、仕事をしている人、学生、それぞれの立場で生きている人たちと話をしたのだとか。
「ドイツから飛び出して、旅をしてみてよかった。世界中の人と喋ることができて、友達になった。人生観が大きく変わったよ!」
息子からその言葉を聞いたとき、私はハッとしました。
これって、どこでも生きていくことができる力が付きつつあるってことなんじゃないか、と。
もし、日本で子育てをしていたら、もしかしたら成績もマシだったかもしれないし、もう少し自己管理できるようになっていたかもしれない。でも、もしかしたら、こんな体験はさせられなかったかもしれないし、私も息子も尻込みして、できなかったかもしれない。
確かに成績も大事だけど、もしかしたら成績よりも大事なことを、息子はできるようになっているのではなかろうか。(いや、成績も大事だけど!)
その子の性格にもよるのでしょうけど。ただ、うちの子にはドイツでの教育を受けさせて後悔するどころか、逆に合っていたんじゃないかと、やっとそう思えるようになってたんです。
そんなことを友人に話したときのこと。
「jucomって昔、子育てのゴールは"たとえ無人島に漂着しても…"って言ってたよね。もうそれ、叶ってるんじゃない?」
そうだった。忘れてた。
子供を産んだとき、私が決めた子育ての最終目標。それは、
「たとえ無人島に漂着したとしても、知識と知恵を絞り、逞しく、そして楽しく生き延びられる人間に育てること」
もしや、半分以上かなっているのでは!?
そう気づいた瞬間、ずっと頭をよぎっていた後悔が、すっと消えていきました。
過去の自分も、今の自分も。息子の過去も、今も。全部、許せた気がしました。
あの数々のトラブルも、怒りで体が震えたあの夜も、全部ここまで来るために必要な道のりだったのかもしれないと、そう解釈することができました。
ドイツでの子育て、まだ後悔している?
この記事を書いている今、息子はまだタイにいます。
実は、あの頃の怒りを思い出すと今でも胸がざわざわします。
しかし、ドイツという国にも感謝しています。
自己責任の文化、自由の多い環境、管理されない分だけ自分で考えなければいけないこの国が、息子をこんなふうに育ててくれたのかもしれません。
日本の教育の良さも、ドイツの教育の良さも、両方ありますし、その逆もあります。それを踏まえた上で、ドイツでの教育を選んできた子どもと私。日本に一人で本帰国した夫に対して責任を感じていましたが、やっと楽になった気がします。
今週末、アイツが帰ってくる
今週末、約5ヶ月ぶりに息子がドイツへ戻ってきます。
そして、バイトを再開しながら大学入学の準備をし、スムーズにいけば秋頃から大学生になる予定です。これから社会人へ向けてハードな勉強をしていくことになると思います。
きっと、見守っていてハラハラしたり、腹が立つことも何度もあるでしょう。
でも、恐ろしいほどのスピードで変化していくこの世の中で道を切り開いていくには、知識と知恵ももちろん必要ですが、「バイタリティ」がなくては始まらないのではないでしょうか。
「バイタリティ」とは、「活力」「生命力」「やる気や元気に満ちた状態」を意味する言葉です。体力や精神力を含めた総合的なエネルギーを示す場合に用いられます。—— Forbes Japan より
決められたことしかできない大人には、決してなって欲しくないのです。
「これで良かったのか」と不安になることがあっても、今の結果ではなく将来の結果を見据えて、ドーンと構えようと思います。粗探しはしないように。(自分に言い聞かせ中)
ちなみに娘は、そんな兄を見ているせいか、めちゃくちゃしっかり育っています。
そんなわけで、現地でタイ人からタイ語で話しかけられるくらい真っ黒に日焼けした息子との再会が、楽しみな今日この頃であります。
逆留学シリーズでは、息子と娘がドイツから日本へ逆留学した体験を詳しくまとめています。よかったらこちらもどうぞ。

