ドイツの教育事情

クラスメイトは同性愛者【ベルリンの学校事情】

2024年7月11日

ベルリンで同性愛者は「普通」で、そんなことにいちいち反応しません。

ギムナジウムに通う娘のクラス(中二)は女子8人のうち3人が同性愛者。

息子のクラス(高二)にも同性愛者やバイセクシャルの子がいます。クラスメイトも親も公認。クラスではストレートとかゲイとか関係なく、お互いに恋愛相談もするそうです。

相談相手がいて、変に隠さなくても良い環境は素晴らしいですね。良い時代です。

娘のクラスのレズビアンの子はそれぞれ彼女がいます。

息子のクラスメイトのバイの男子は女の子と付き合っていながら男の子と浮気してバレて大喧嘩したとか。

いいですねぇ、青春を謳歌していますねぇ。それに比べて浮いた話のひとつもないうちの子たちといったら。

そんな環境が「普通」である我が子たち。多感な時期にここで過ごせて良かったと、最近になって思うことの一つです。

日本人でありながらベルリンで育っている彼ら。今回は、彼らの「普通」に関して触れてみたいと思います。

さて、古くから「ヨーロッパのゲイの首都」として知られていたベルリン。

街中でも同性愛者やカップルをよく見かけます。特に隠すこともなく、寄り添って歩いていたり街中でキスをしていたり。前にいた某D市よりもはるかに見かける回数が多い気がするベルリン。

特に Schöneberg(シェーネベルク)地区の Nollendorfplatz(ノーレンドルフプラッツ)周辺はゲイコミュニティの聖地であります。

レインボーフラッグを掲げているお店やアパートが多く、ふらっと薬局に入るとムキムキのアニキが優しい物腰で接客してくれたりします。

この辺りは毎年夏に行われるクリストファー・ストリート・デイ(CSD Berlin)のメインイベント、欧州最大規模と言われるプライドパレードのルートになっています。

このパレードに参加するために、毎年世界中から参加者が集まってきます。その数75万人!この期間中、ベルリンの街にはレインボーグッズを身につけた人たちで賑わいます。

動画を見ていただければお分かりですね。同性愛者や人種などの垣根を越え、本当にいろんな人がいるのです。ここで育つと「普通」の定義がとても広くなるのも当然かもしれません。

ここで少し話がそれますが、これもまたドイツの「普通」の話。

数年前、湖を裸で泳いでいた30代くらいの男女を見かけた時のこと。泳ぎ終わった二人はお互いに真っ裸で楽しそうに会話しながら体を拭いて服を着て、挨拶した後別々の方向へ帰って行きました。何と他人同士だったのです!実はドイツではそんな光景をよく目にします。

そもそもドイツのヌーディズムは、性的な要素とは区別されています。裸体でいることは個人のプライバシーと自己表現の一環と見なされているからです。

そのためヌーディストビーチやサウナ(基本的に混浴)などでは、性的な緊張感がなくリラックスした雰囲気が保たれています。

ドイツには19世紀末から20世紀初頭にかけて「自由な身体文化(Freikörperkultur, FKK)」が発展しました。自然の中で自由に裸で過ごすことを楽しむ文化。つまり百年以上も前から裸体が健康や自然との調和の一部と見なされてきた歴史があります。

幼い頃からそんな中で育っている娘も息子も、そういった場所でのヌードに対して特別な感情を抱きません。

この、個人の自由と権利を重視し、身体や性に対するリベラルな姿勢という点で、同性愛の受け取り方と繋がっている気がします。社会環境、共有されている価値観というのは本当に大事ですね。

それにしても公の場面で「裸=性行為」と直結しない文化は、日本で育ってきた私には羨ましい限りです。

ともあれ、私が育ってきた日本(の田舎)の環境とは大きく違う子どもたちの環境。私の言葉で余計な偏見を持つきっかけを与えぬよう、気をつけながらもいろいろ質問してみました。

まず、娘に。

友達から自分は同性愛者だという話を聞いた時、どう思った?
jucom
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娘
どうって?
例えば驚いた、とか。
jucom
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娘
なんで?別に普通だよ。まあ、見た目でもきっとそうなんだろうなって思ってたし。
確か親も公認だって言ってたよね。
jucom
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娘
東欧出身の子だし、最初は解ってもらえないかもしれないと悩んでたみたいだけど。カミングアウトしたら全然大丈夫だったみたいだよ。
あなたも心配してたものね。よかったよかった。
jucom
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ちなみに、女性の同性愛者は髪の毛を短くしてボーイッシュな格好をしている人が多いそうです。もちろんショートカットの女性が全員そうなわけではありません。しかしそう言われてみると、確かに娘のクラスメイトは見事に二分しています。ストレートの女子はロングヘア、レズビアンの子はショートヘア。

この辺の髪型やファッションは、ある意味型にハマっているとも言えます。日本の方が多様性に富んでいますね。他の国はどうなのでしょうか。気になるところです。

息子
息子
この間さ、クラスのいつものメンバーで急に湖で遊ぶことになって。誰も水着がなかったからパンツで飛び込んだんだよね。ウヒャヒャ
へー誰が一緒だったの?男子だけ?
jucom
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息子
息子
いや、〇〇(女子)も一緒だったよ。
え!?女の子一人だけ?その子も下着(ブラジャーとパンツ)で湖に入ったの?男子と!?
jucom
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息子
息子
そうだよ?(キョトン)
え、恥ずかしかったりとかはしないんだ。
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息子
息子
何で?友達だもん。
ほう…。
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「ほう…」ってなりますよね!?びっくりしました。さすがにヌードじゃなかったみたいですが。

例えば日本だと、痴漢やレイプ事件が起きた場合、女性側の服装によっては被害者の落ち度にされてしまうことがありますよね。

ドイツでそれはあり得ません。

お尻が半分出ているようなショートパンツを履いていても、たとえブラジャーが透けているトップスを着ていても、何ならビキニトップで街を歩いていても、はたまたノーブラにキャミソールで出歩いていても、誰からも凝視されることはありません。これはドイツに限ったことではありませんね。

なんて素敵な「普通」でしょうか。

百年かけて成熟してきたこの文化、もっと世界に広まってほしいです。

さて話は戻りドイツについて。

1871年に制定された刑法の第175条で、男性間の同性愛行為が違法となりました。その後もナチスの下で同性愛者はピンクトライアングルを付けさせられ、過酷な待遇を受け、処刑されています。

第二次世界大戦後も同性愛者は逮捕され、社会的に抹殺され続けてきました。

1994年ドイツ再統一後、第175条は完全に廃止。2017年にはドイツ全土で同性婚がついに合法化されました。つい最近のことですね。

そんな中、ベルリンでは弾圧時代も同性愛者たちが独自のコミュニティを作り上げ、特に1920年代は聖地Schönebergを中心に黄金期を迎えました。

2001年にはさらに大きな変化が生まれます。ベルリン市長になったクラウス・ヴォーレライトが「Ich bin schwul, und das ist auch gut so」「私はゲイです。そしてそれは良いことです」という有名なフレーズで自分が同性愛者だと公言したのです。

この宣言は、ドイツの政治家としては非常に画期的で、LGBTQ+コミュニティに対する支持を示す強いメッセージとなりました。

ザッと書きましたが、こちらの記事を読むと、それが決して簡単ではなかったことがよくわかります。

ベルリンの文化はこのような勇気ある方達の行動が積み重なってのものなのですね。

ニュージーランド議会での同性婚法案成立のスピーチ

以前、うちのマンションの敷地内で熱いキスを交わしている美男子カップルがいた時のこと。うちの子たちは普通に会話しながら気にも留めずにその横を通り過ぎていました。母はこっそり感動。そう、それで良いのです。

ではニュージーランドで同性婚法案を可決に導いた有名なスピーチをご存知でしょうか。何度聴いても心に響くスピーチです。

これは2013年、10年以上前のスピーチです。

アメリカでも、2015年に米連邦最高裁により全土で同性婚が認められました。

夫から人権を奪われていた金子みすゞ氏は百年前に詩を書きました。

「みんな違ってみんないい」

百年経った今、日本はどうでしょうか。

と、あたかも自分が生まれつきリベラルっぽく語ってきましたが。

もし私が弾圧時代に、同性愛者が「普通」ではないという時代に生きていたとしたら。私も偏見を持つ側だったかもしれません。

たまたま私の周りには20代の時から同性愛者やバイセクシャルの友人がいました。本だけでなく、テレビ、映画やインターネットを通じて様々な価値観と触れ合う機会にも恵まれました。

でも、親や社会が同性愛者を異端とするのが正義、真理だと、「普通」だと言っていたら?

社会環境というのは、特に子供の価値観に大きな影響を与えます。

だからこそ、この時代になっても依然として「普通」を履き違えている人にこそ先ほどのニュージーランド国会でのスピーチを聞かせたい。

「今ここで、この法案に反対する人たちに約束いたします。明日も太陽は昇ります。(中略)明日も世界はいつものように回り続けます。だから大騒ぎするのはやめましょう。この法案は当事者にとっては素晴らしいものですが、そうでない人には今までどおりの生活が続くだけです」

これを、娘も息子もクラスメイトを通じて肌で知っているだけのことなのですね。

この環境を作り上げてくれた、過去の英雄たちに心から感謝しています。

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