娘が再び立ち上がった日

Monday 2 December, 2019

ドイツの文化というか国民性の一つに、人間関係において保守的な面が強いことが挙げられます。例えば大きなパーティーなどでは必ず知り合いを探して捕まえて、最後までその人を離さずに一緒に居続けることを好む人が多いところとか。

小学校へ入学する時も、学校側から必ずと言っていいほど聞かれるのは同じ新入生に友達はいるかどうか。そこで名前を挙げると、なんと同じクラスにしてもらえるのです。ドイツの小学校は基本的に卒業までクラス替えがありません(3年生もしくは4年生でクラス替えを行う学校もあります)。それもあり、親は幼稚園の頃から、我が子と仲の良い子がどの小学校へ入学するのかを気にします。仲の良い子と「一緒の」学校へ進学し「一緒の」クラスになることを最重要事項とする。自分の子が知らない子たちの中で孤立しないように細心の注意を払い、時によっては入学を1年遅らせてまで子供の友達と「一緒の」クラスになるように調整します。そして学校側も全面的に協力する。確かに子供達にとっても安心材料になるでしょう。でも、私にとってそんな親たちは時に少し過保護に感じます。

で、小学校1年生になるタイミングでベルリンへ引っ越してきた娘は、そんな子たちが集まったクラスに単身で飛び込み、馴染むのに少し時間がかかりました。もちろん仲良くしてくれる子もいるんですよ。でも、何か大事な時、例えば二人一組で何かをやる時にあぶれたり、大事な取り決めをする時に後回しにされてしまうことが多々ありました。もちろん少々気難しい娘の性格も影響しているのでしょうけど、それだけでは無いであろう雰囲気も感じていました。 

※その時の様子を過去記事に書いています→【娘が立ち上がった日】

で、9月から4年生になった娘は、社会科の授業でプレゼンテーションをすることになりました。二人一組でテーマを決めて発表することになり、娘はクラスの中で比較的仲の良いAちゃんと組みました。やる気満々だった娘は、家でそのテーマについて調べたり、写真をプリントアウトして学校へ持って行き、積極的に取り組んでいたのですが、Aちゃんは元々あまり集中力がなくじっと座っていられない子です。娘がレポートを作成している横でAちゃんはふらふらと遊んでいるそうで、自分ばかり頑張っていてAちゃんは何もしてくれないと、娘はよくぼやいていました。

ある時、娘は体調を崩し、3日間学校を休んだ後、4日ぶりに登校しました。

その日の夕方、娘はしょんぼりと俯いて帰宅しました。その姿に驚いた私は何があったのか尋ねると、娘が学校を休んでいる間に、ある女子が「私、やっぱりこの子じゃなくて別の子とプレゼンしたい」と言いだし、結果として1人ずつペアがずれていき、娘と組んでいたはずのAちゃんは別の子と組むことになっていたのだそうです。しかも、娘が頑張って準備していたテーマもAちゃんたちに取り上げらてしまいました。同じようにあぶれてしまったのは娘の天敵でもある、女版ジャイアンのBちゃん。(このBちゃんのことも過去記事にちょろっと書いています)

仕方なく娘がBちゃんに「じゃあ一緒にやる?」と聞いたら、気の強いBちゃんは「えー別に私、1人でやるし!」と全然つれない返事だったそうで、いやもう全部ひっくるめて酷くありません?

話を聞けば聞くほど、もともと血の気の多い私の脳内ではすでに戦いのゴングが鳴り響き、「い〜まからそいつを、これからそいつを、殴りにいこうか〜♪」って懐メロが鳴り響き渡っておりました。普段は子供同士の揉め事、しかも学校内のことには一切口を出さないようにしているのですが、さすがに今回は娘が不憫で不憫で…。思わず「お母さんがAちゃんのママに話してみようか?」と申し出てしまいました。

でも娘はポロポロと涙をこぼしながら、「それはいい。」って言い張るんですよね。(多分、私の殺気がバレたと思われ)

じゃあどうする?何か良い方法を一緒に考えようか、と娘を抱きしめながら、どうするのが一番良いのかぐるぐる考えました。

実は娘には伝えていなかったのですが、そもそもAちゃんと組むことになった時、私は少々懸念していました。Aちゃんというのは10歳年の離れた兄姉のいる3兄弟の末っ子で、めっちゃ気が強く弁が立ち、言い方があれですけどちゃっかりしていて小ずるいところのある子なんです。もちろん良いところもあるのですが、今回の準備の様子を見ていて、娘が一生懸命頑張って仕上げたのを発表段階で上手いことやって手柄を全部奪っちゃいそうだな、なんてチラッと心配していたんです。というのも過去にも似たようなことがあったので。

そこで、こう提案してみました。
確かに今回のことは腹が立つし酷いと思う。でも、今までもAちゃんはあまり真面目にやっていなかったし、あのまま一緒にやっていてもあなただけが大変な思いをしていたと思う。もしかしたらこれはチャンスかもしれない。Bちゃんはあんな言い方したかもしれないけど、ちゃんと話せばわかってくれるのではないか。「クラスで一番かっこいいプレゼンを一緒に作ろう!」ってもう一度あなたから声をかけてみたら?それに、また違うテーマを調べるってことは、あなたの知らないことをたくさん知ることができるから、きっと楽しいと思うよ!と。

娘はじっと考えていて、私の案を良いとも悪いとも言いませんでした。なんせ相手はずっと天敵だったBちゃんです。今までのギスギスした関係や辛辣なやりとりを私も知っています。娘は「とにかくこの先は自分で考えてどうにかしてみる」と言ってその夜は眠りにつきました。

次の日。

いつもと同じように、そしていつも以上に祈りを込めて「楽しい1日になるよ!」と声をかけて学校へ送り出しました。その日はずっと、犬の散歩をしながら、電車に乗りながら、トイレにこもりながら、ムダ毛の処理をしながら、何をしていても娘のことが頭の中から離れませんでした。

夕方、娘が笑顔で帰宅しました。「どうだった?」と声をかけたら、ニカっと笑顔でガッツポーズ。何があったの?と尋ねる私に娘は説明してくれました。

学校へ行き、Bちゃんに思い切って「2人でちょっと話したい」と声をかけたのだそうです。そして2人きりになった時にこう伝えたそうです。

「あなたが私のことをあまり好きじゃないのは私もわかってる。でも、私はあなたと一緒にプレゼンの準備をしたい。そして、クラスで一番かっこいいプレゼンをしたい。どう、一緒にやらない?」

Bちゃんは「いいよ」と答え、それからは2人であれこれアイディアを出し合って、すごい勢いで準備を進めているのだそうです。しかも、彼女と一緒に決めたテーマは、彼女のお父さんのコネもあり、なかなか手に入らない情報が入手できて内容も濃くなっているのだとか。その日から娘とBちゃんは急速に仲良くなり、休み時間も一緒に楽しく遊ぶようになったそうです。

まだプレゼンは終わっていませんが、Aちゃんと準備をしていた時よりもずっと楽しそうですし、完成度も高くなりそうです。結果オーライ!

9歳なりに大きな勇気を出して一歩を踏み出し、自分の力で問題解決をした娘に感動し、全力で褒め称えました。成績で一番を取るよりも、何よりも素晴らしいことをあなたは成し遂げたのよ!と。そんな娘を心から誇りに思います。

娘は性格的にややこしいところがあり、時々クラスで浮いてしまうのは自分にも原因があるからだと本人も自覚しています。でも、娘なりに人間関係に悩みながら試行錯誤し、少しずつ成長していっているのだと思うと、母としては言葉にできない思いが胸に溢れてきてしまうのです。私の小さな胸はもう熱い想いで満タンです。

冒頭で述べたように、親も子も人間関係に保守的な人が多い中、私はやはり子供にはどんどん新しい世界を広げていって欲しいですし、これからも新しい世界に飛び込む勇気を持ち続けて欲しいと思っています。だから知り合いがいるかどうかで進む道を決めるのではなく、自分が何をしたいかで進むべき道を決められる人間に育って欲しい。そのために、私自身が新しい世界に飛び込む勇気を持ち続けて、その姿を見せていこうと思ったのでした。

で、人間関係でぶつかりまくっている娘の姿を見て、つくづく思うのです。

昔の私にそっくりだな、って…

(責任を感じておりますハイ)